会社員の家計を複式簿記で考える

現金の収支のみに注目する単式簿記に対して、負債の変動も記録するのが複式簿記の特徴です。会社の会計は複式簿記で記録しますが、家計は小遣い帳(単式簿記)で考えることが多いです。

では、家計簿を複式簿記にすると、どのように見えるでしょうか?

本記事では、ある会社員の1ヶ月(4月)の家計を仮定し、複式簿記で記帳してみます。1ヵ月分ですが、賃借対照表と損益計算書も作成してみます。

(※1)簿記の基礎知識(仕訳の理解など)は前提とします。
(※2)勘定科目は簿記での表記ではなく、家計簿の感覚で表記します。正確ではないのでご留意ください。

前提条件

3/31時点での資産は次のように仮定します(極端ですが)。
・現金500万円
・スマホ(下取り価格は3万円)

賃借対照表にすると次の通りです。負債がないので、純資産は503万円です。
(※3)純資産の勘定科目は考えず、単純に[資産 – 負債]とします。

資産
現金5,000,000
スマホ30,000
負債
なし
純資産
5,030,000

1ヶ月(4月分)の仕訳

1.(4/1)銀行に現金100万円を預金する。

(資産)預金1,000,000
(資産)現金1,000,000

2.(4/1)株式を現金100万円で買う。

(資産)株式1,000,000
(資産)現金1,000,000

3.(4/3)車(120万円)を買う。頭金20万円を現金で支払い、残りはローン(10回払い)で返済する。

(資産)車1,200,000
(資産)現金200,000
(負債)車ローン1,000,000

4.(4/15)車のローンを現金で支払う。

(負債)車ローン100,000
(資産)現金100,000

5.(4/20)新しいスマホ(8万円)を買う。古いスマホ(価値:3万円)を下取りに出し、残りは現金で支払う。

(資産)スマホ(新)80,000
(資産)スマホ(旧)30,000
(資産)現金50,000

6.(4/25)給料40万円(手取り)をもらう(銀行振込)。

(資産)預金400,000
(収益)給料400,000

7.(4/27)家賃10万円を支払う(引落し)。

(費用)家賃100,000
(資産)預金100,000

8.(4/27)光熱費5万円を支払う(引落し)。

(費用)光熱費50,000
(資産)預金50,000

9.(4/29)子供に小遣い5万円を現金であげる。

(費用)小遣い50,000
(資産)現金50,000

10.(4/30)食費(1ヵ月分まとめた)10万円を現金で支払う。

(費用)食費100,000
(資産)現金100,000

4月分の決算

損益計算書

費用
家賃100,000
光熱費50,000
小遣い50,000
食費100,000
利益
4月の利益100,000
収益
給料400,000

収入(収益) > 支出(費用)なので、差し引き10万円増えました
なお、車はまだ新品と同じ価格(120万円)で売れると仮定しています(現実的ではないですが)。この場合、車の購入は資産の交換(現金と車)となり損失は生じないため、損益計算書には現れません。現金の収支のみ記録する単式簿記の場合は、120万円の消費という面しか記録しないため、資産がガクッと減るように見えます(車を購入と同時に使い切るイメージ)。

賃借対照表

資産
現金2,500,000
預金1,250,000
株式1,000,000
1,200,000
スマホ(新)80,000
負債
車ローン900,000
純資産
(※4)5,130,000

(※4)[3/31の純資産]503万円 + [給料]40万円 – [費用]30万円。10万円増えた。

120万円の車を買ったのに、資産の総額が3/31(503万円)より100万円も増えています
このうち10万円は、損益計算書でみた利益です。
残りの90万円は、車という資産(120万円)が増えたためです。その代わり、未払いのローン90万円(負債)も計上されています

まとめ

複式簿記のメリット

負債を返済する余裕があるか確認できる

上記の例では、車ローンが90万円あるのに対して、現金+預金+株という現金化できる資産が475万円もあります。損益計算書でも利益がプラスになっているので、ローンは問題なく返済できそうです。
一方で、資産に対して負債の金額が大きい場合は注意が必要です。損益計算書で損失が生じている場合も同様ですね。これらの場合は、収益を上げていく必要があります。単式簿記ではこれらのリスクを見落とす可能性がありますが、複式簿記であれば見落としません

主な資産や負債が複数あっても一目で把握できる

上記の例はスマホと車しか所有していない超ミニマリストでしたが、多くの方は家具、服、PCなど様々な資産を持っていると思います。
現金が少なくても、現金化できる価値のある資産がどのくらいあるか把握できれば安心できます。また、住宅ローン、保険、奨学金などの負債が複数ある場合も、総額を把握できれば返済計画の見通しがよくなりそうです。

複式簿記のデメリット

記帳と管理に手間がかかる

単式簿記と比べると記載する内容が多いので手間がかかります
また、上記の例では車を120万円の資産として計上しましたが、実際には車の価値は下がっていきます(10年後に新品と同じ価格で売るのは無理があります)。そのため、企業会計では減価償却の概念を導入し、1年ごと(決算ごと)に資産の価値を見直します。家計でそこまでやるのは面倒かも。

おわりに

そもそも企業会計に複式簿記が採用されているのは、企業の経営状況を株主が把握できるようにするためです。家計も、家族で認識を共有するなら複式簿記の方がわかりやすいのかもしれません。家族が理解できれば良いので、勘定科目などの厳密性にこだわる必要はないでしょう
ちなみに、国や地方自治体の会計では「歳入」や「歳出」という用語がありますが、これは単式簿記の表現です。現金の収支に注目するため、学校などの公共施設を建てた年度に建設費用の全額が計上されます(2年目以降も使える資産であるにも関わらず)。これでは財政状況を見誤るため、最近は自治体でも複式簿記が取り入れられているようです。

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