グローバリズムは政治的な思想であり、経営のグローバル化とは別の概念です。政治思想としてのグローバリズムとは何を意味するのか整理してみます。
グローバリズムの政治的な意味
グローバリズムとは
globe(地球)+ism(主義)なので、直訳すると「地球主義」です。国境を意識しない考え方です。より具体的に言えば、モノ、ヒト、カネの国境を超えた自由な移動を推奨します。モノなら貿易、ヒトなら外国への出稼ぎ、カネなら為替取引などが自由にできるということです。
ナショナリズムとは
グローバリズムに対して、国ごとに独立・発展することを目指す(国境を意識する)考え方です。nation(国民)+ism(主義)なので、直訳すると「国民主義」です。
経営におけるグローバルの意味
国内だけでなく、外国に工場を作って現地の外国人を雇っている企業は、グローバル企業と呼ばれます。この場合は地球主義というほど広域な概念ではなく、外国に少しでも進出していればグローバル企業と呼んでいます(程度の認識は人によるとは思いますが)。
グローバル経営に対する概念は、ローカル経営です。ローカル経営は、国内経営より狭い地域密着の意味合いが強いので、グローバル経営のグローバルは「広域」と捉えた方が自然だと思われます。
経営のグローバルやローカルは個々の企業の戦略であり、国の安全保障などを考える政治とは目的が違います。
グローバリズムの具体例
モノのグローバル化
モノが完全にグローバル化すると、自由貿易に行き着きます。国境を超えた自由競争になるので、外国から輸入される製品の方が安くて品質も良い場合は、国内産業が潰れてしまう可能性があります。
18世紀のイギリスでは、産業革命で低価格・高品質な綿織物が作れるようになり、多くの綿織物をインドに輸出しました。機械化が進んでいなかったインドの職人は生産性で勝つことができず、インドの綿工業は衰退してしまいました。
現代ではこのような技術格差や物価の違いから自国産業を守るため、関税が設けられている国が多いです。しかし、TPPのように関税を低くして自由度を高めようとする動きもあり、推進派と保守派で意見が分かれるところです。
ヒトのグローバル化
ヒト(労働力)が完全にグローバル化すると、外国の労働者を自由に雇うことができます。労働者自身も、賃金の高い国に出稼ぎに行けるようになります。
代表例として、欧州連合(EU)では労働者が国境を自由に行き来できます。しかし、西欧諸国と比べて東欧諸国の方が賃金が低いため、東欧諸国から西欧諸国へ一方的に労働者が移る傾向にあります。西欧諸国の国民からすれば、低賃金でも働いてしまう東欧諸国の労働者に対抗するため、自分たちも低賃金で働かざるを得なくなってしまいます。そのため、グローバル化に対する反対の動きもあります。
カネのグローバル化
カネが完全にグローバル化すると、共通通貨を使うようになります。欧州連合の一部の国では、共通通貨としてユーロが使えます。共通通貨を使うと、モノやヒトも国境間を移動しやすくなりますが、各国の独断で財政を行うことができなくなります。日本政府は自国建通過である円の価値(需要)をコントロールできますが、ギリシャ政府が共通通貨であるユーロの価値を独断でコントロールすることはできません。
また、円は日本でしか使えないので共通通貨ではありませんが、ドルと交換する(ドルで円を買う)ことはできます。外国の投資家がドルで円を買えば、日本企業の株を買うことができます。そのため、日本企業でも外国の投資家がおもな株主となれば、経営方針も外国の投資家がコントロールできてしまいます。この場合、日本の産業を成長させるために投資する場合もあれば、株主自身の利益を得る投機が優先されて社会的意義が疎かになる場合もあります。
おわりに
グローバリズムを推進するにしても、完全に国境を取り払ってしまうと国の安全が保障できません(パスポートもビザも廃止して、輸入品もチェックしないようなもんです)。
そのため、貿易する製品には関税をかけて自国産業を守り、外国の労働者を雇う場合は自国民の賃金水準が低下しないように注意し、公営事業を民営化する際には外国人投資家に主導権を握られる(株主の大半を取得される)ことがないようにする必要があります。0か1かではなく、間をとってどこでバランスを取るかを考えることが多いと思います。
欧州連合諸国は陸続きで接しており、国同士が何度も争ってきた歴史があります。これは各国のナショナリズムが強すぎたからではないかという反省もあり、西欧ではグローバル化が進んだという面もあります。
しかし、現代の欧州連合では、移民の大量受け入れによる賃金低下やテロ被害のように、グローバル化のデメリットも顕在化しています。グローバリズムによってメリットがあるかどうかは、国によっても他国の情勢によっても異なります。日本もグローバル化を推進する動きがありますが、それが自国のためになるのか、経済利益だけでなく安全面を考えて検討する必要があると思います。