インフルエンザの予防接種は意味がないという意見を耳にしたので、予防接種の仕組みについて免疫学の観点から調べてみました。
伝染病への対策
天然痘との闘い
ペストや黒死病など、ヨーロッパでは様々な伝染病で多くの人たちが亡くなりました。一方で、伝染しても治癒すれば二度と感染しない(免疫ができる)ことも古くから知られていたようです。
そこで、おもな伝染病の一つである天然痘に対する予防措置として、感染者の膿から採取した天然痘ウイルスを健康な人に接種して免疫をつける試み(人痘)が始まりました。快方に向かっている感染者から毒性の弱ったウイルスを採取しましたが、結局は接種したウイルスの毒性が復活して死亡する例もあったようです。
ワクチンの始まり
しかし、18世紀には牛の天然痘(ヒトの天然痘とはウイルスが異なる)を接種する方法に替わります。牛の天然痘はヒトが接種しても重篤化しづらい上に、ヒトの天然痘に対する免疫もついたようです。これがワクチンの始まりと言われています。
水際対策の重要性
15世紀、コロンブスをはじめとする多くの西洋人がアメリカ大陸に渡りました。家畜も運送されたこともあり、西洋で広まった伝染病のウイルスも持ち込まれてしまったようです。これらの伝染病ウイルスに対する免疫がなかった多くの先住民が命を落としたそうです。
現代では入国審査などの仕組みによって水際対策を行っていますが、新種のウイルスが持ちこまれることに対する警戒心は昔と同じく必要なことだと思います。
ウイルスの特徴
伝染病だけでなく、普通の風邪もコロナウイルスやライノウイルスといったウイルスによって引き起こされます。インフルエンザの原因はインフルウイルスです。
ウイルスは遺伝子と殻(タンパク質でできている)によって構成されています。ウイルスは細菌と違って細胞を持たないので、自己増殖ができません。そのため、ヒトなどの細胞を利用して増殖します。
白血球のはたらき
ウイルスが体内に入っても、ある程度は白血球によって破壊されます。白血球は免疫細胞の総称で、種類によって攻撃方法や攻撃対象が異なります(本記事では深入りしません)。
免疫の獲得
未知のウイルスが体内に入ると、白血球に異物と見なされて破壊されます。この時に免疫記憶細胞によってウイルスの情報が記憶されます(免疫ができる)。このため、既知のウイルスが体内に入ったときは白血球がすぐに攻撃対象を見つけられるようになり、ウイルスが増殖して症状が重篤化するのを防げます。
免疫の喪失
白血球には寿命があるため、免疫記憶細胞もいずれ死滅します。あるウイルスに継続的に感染していれば若い免疫記憶細胞に記憶が引き継がれて免疫が保持できますが、病原体に触れない環境で長期間過ごすと免疫が失われます。
ワクチンのはたらき
ワクチンの役割と種類
免疫をつけるためには、免疫記憶細胞に情報源としてウイルスを提供する必要があります。そのため、人体に危害を与えないようにウイルスを接種するのがワクチンの役割となります。
弱いウイルスを投与するものを「生ワクチン」と呼びます。一方、感染性を無効化したウイルスを投与するものを「不活化ワクチン」と呼びます。
日本でのワクチンの作り方
日本ではおもに次の手順でワクチンを作っているようです。
- 鶏卵にウイルスを接種して培養する
- 増殖したウイルスを採取して不活性化する
ワクチンの副作用
ワクチンの副作用として考えられるのはアレルギー反応です。アレルギーは、人体に無害な異物に対して白血球が過剰に反応することで引き起こされます。花粉症の場合、花粉がウイルスと同じような敵とみなされて白血球が攻撃を続けます。
鶏卵でウイルスを培養して作られたワクチンは、卵アレルギーを持つ人が接種するとアレルギー反応が出る可能性があります。
また、ワクチンの効果を高めるために混ぜられた物質(アジュバント)も、人によってはアレルギーの原因になるようです。そのため、外国で実績があるアジュバントでも、日本国内で使用経験がない場合は、副作用の影響を慎重に考慮する必要があります。
おわりに
インフルエンザの予防接種は、すでに免疫がある人には必要なさそうです。とはいえ、すでに免疫があるかどうかを自己で判断するのは難しそうです。
新種のウイルスには免疫を持っている人がいないため、感染して白血球の対処が間に合わなかった場合は重篤化する可能性があります。また、幼児は免疫システムが未成熟なので、ぶっつけ本番で白血球に任せるのはリスクが高そうです。
また、体が弱ると白血球のはたらきも弱まるので、ウイルスを死滅させるのに時間がかかってしまいます。白血球を正常に機能させるために栄養と睡眠をしっかりとることが一番大事だと思いました。
参考
こちらの書籍が大変参考になりました。図書館にはあったけど絶版なのかな。。