物理専攻したのに全然理解してなかったので。。基本的なことについて調べました。
ただ、医学的な見解までは踏み込めませんし、政治的な話(原発の賛否とか)もこの記事ではしません。また、基本的な概念を理解することを目的とするため、用語の定義が厳密には正しくない場合があります。ご承知おきください。

放射線とは

不安定な原子の崩壊

池の水面に石を投げれば波が立ちますが、やがて元の静かな状態に落ち着きます。自然界において、あらゆる物理現象は安定な状態に向かって変化することが知られています。原子も同様で、エネルギー的に不安定な状態から安定な状態に変化します。
例えば、私たちに身近な炭素は6個の陽子を持ちますが、中性子の数は5〜8個のいずれかです。中性子数が6個(炭素12)であれば安定ですが、中性子数が8個(炭素14)の場合は不安定です。状態が不安定な炭素14は、やがて安定な状態である窒素14(陽子と中性子が7個ずつ)に変化します。この変化を崩壊と呼び、崩壊する際に放出されるエネルギーを放射線と呼びます。原子の種類によって、崩壊するまでの期間が異なります。

放射線の種類

放射線は粒子の場合と電磁波の場合があります。おもな放射線は次の通りです。

名称 構成要素 エネルギーの大きさ 透過力
\(\alpha\)(アルファ)線 陽子2個と中性子2個の塊(ヘリウムの原子核) 大きい 人体の皮膚を透過できない
\(\beta\)(ベータ)線 電子 小さい 皮膚の表層まで(深くても毛根まで)
\(\gamma\)(ガンマ)線 電磁波 小さい 人体内部まで透過する
中性子線 中性子 大きい(陽子との衝突で減衰) 人体内部まで透過する

電荷を持つ\(\alpha\)線、\(\beta\)線、\(\gamma\)線は電気的な作用によって人体に影響するのに対して、電荷を持たない中性子は体内で水素の原子核(陽子)を弾き飛ばすことで人体に影響を及ぼします。
なお、\(X\)線も放射線の一種で、電磁波です。\(\gamma\)線とは発生機構が違いますが、電磁波であることには変わりないので、この記事では\(\gamma\)線と同一視します。

放射性物質とは

崩壊して放射線を放出する物質を、放射性物質と呼びます。上述の例で言えば、炭素14を含む物質は放射性物質です。炭素12のように安定な元素からなる物質は、放射性物質ではありません。
また、放射線を放出する能力のことを放射能と呼びます。炭素14には放射能がありますが、炭素12には放射能がないということです。

被曝に至るまで

放射性物質は空気中や食物に含まれています。これらが口から体内に入ると、臓器などに取り込まれてから崩壊して放射線を放出します。このように、体内で放出された放射線に被曝することを「内部被曝」といいます。一方、体外で崩壊して放出された放射線に被曝することを「外部被曝」といいます
上述した\(\alpha\)線は皮膚を透過しないため、外部被曝による人体への影響は少ないです。一方、内部被曝による人体への影響は大きくなります。

放射線の量や影響度を示す指標値

放射能の強さを示すベクレル(Bq)や、被曝量を示すグレイ(Gy)があります。他に、健康被害への影響を数値化した等価線量や実効線量があり、これらの単位はシーベルト(Sv)で表現されます。

名称 単位 定義 説明
放射能の強さ ベクレル(Bq) 1秒間で崩壊する原子核の数 放射線の発生源に対して用いる。放射線の種類は区別しない。
吸収線量 グレイ(Gy) 物質1kg当たりが吸収する放射線のエネルギー量(J/kg) 被曝する人に対して用いる。被曝量の密度を表す。放射線の種類は区別しない。
等価線量 シーベルト(Sv) 放射線荷重係数(※1) × 吸収線量(Gy) 被曝する人に対して用いる。人体への健康被害を点数化したもの。被曝した放射線量が同じでも、放射線の種類によって値が異なる
実効線量 シーベルト(Sv) \(\sum\) [組織荷重係数(※2) × 等価線量(Gy)] 被曝する人に対して用いる。人体への健康被害を点数化したもの。被曝した等価線量が同じでも、被曝した組織の種類によって値が異なる
(※1)放射線荷重係数・・・放射線の種類ごとに設定された、健康被害への影響度。内部被曝での影響が大きい\(\alpha\)線は、\(\gamma\)線や\(\beta\)線の20倍の度数が設定されている(国際放射線防護委員会(ICRP)2007年勧告での値)。
(※2)組織荷重係数・・・被曝した組織ごとに設定された、健康被害への影響度。骨髄や肺は、脳の12倍の度数が設定されている(国際放射線防護委員会(ICRP)2007年勧告での値)。

原発事故などで放射線が大量に放出されると、人体への影響が懸念されます。放射線の強さ(Bq)はわかりやすい概念ですが、放射線の発生源から距離を取れば被曝量は減るため、健康被害への影響を知るには不十分です。また、吸収線量(Gy)が高くても、放射線の種類や被曝した組織によって健康被害への影響は異なります。
そこで、放射線の種類や被曝した組織も考慮して、健康被害への影響度を示した等価線量(Sv)や実効線量(Sv)が定義されています。放射線の強さ(Bq)と吸収線量(Gy)は測定できる物理量であるのに対して、等価線量(Sv)と実効線量(Sv)は専門家によって設定された影響度によって重みづけされています。影響度は原爆や原発事故での被爆者の経過を観察したデータに基づいて設定されるため、新たな研究成果が得られれば値も変わる可能性があります

人体への影響

細胞の損傷

私たちの体は様々な細胞によって構成されています。その細胞を構成する原子は、プラスの電荷を持つ原子核とマイナスの電荷を持つ電子によって構成されています。
放射線が体内を通過すると、通過した細胞内の原子から電子が弾き飛ばされ、原子が電気的に不安定な状態になります。これが細胞の損傷となります(程度にもよると思いますが)。細胞核のDNAが直接損傷する場合もあるようです。
軽い損傷であれば自然治癒で修復しますが、重度の損傷を受けた細胞は修復できずに死滅します。一部の細胞が死滅しても周りの細胞が無事であれば細胞分裂によって回復できますが、多量の細胞が一度に死滅すると回復できず、組織や体全体が損傷を受けてしまいます。

放射線の種類と被曝の仕方による影響の違い

原発事故などで大量の放射線が放出されると、まず外部被曝による影響を受けます。\(\alpha\)線は皮膚を透過できないため、おもに\(\gamma\)線による被害が懸念されます。
外部被曝の影響を避けるには発生源から離れることが確実です。また、\(\gamma\)線も密度の高い鉛や鉄の厚い板は透過できないため、避難が間に合わない場合は屋内に入ることで被曝量を軽減できます。

外部被曝は放射性物質が崩壊して放出された放射線によるものですが、原発事故では崩壊していない放射性物質も放出されます。これらの放射性物質が口から体内に入り、体内で崩壊すると内部被曝を受けます。すぐに崩壊するとは限らないため、野菜や魚などの食物を通じて放射性物質を取り込む場合もあります。1986年のチェルノブイリ原発事故では政府が公表を遅らせたため、放射性物質が付着した食物を口にして内部被曝した住民が多かったようです。

外部被曝では放射線が体内を通過するのは一度ですが、内部被曝では放射性物質が放射能を失うまで崩壊が続きます。放射性セシウムは排出されやすいようですが、放射性プルトニウムは骨や肝臓に沈着します。放射性プルトニウムの場合は、食物よりも空気中に含まれるものを吸い込むことにより、肺から血液を通じて骨や肝臓に侵入するようです。

瞬間被曝量と健康被害

上述の通り、放射線を被曝して細胞が損傷しても、基本的には自然治癒によって修復すると思われます。ただし、広島・長崎での原爆による被曝では、瞬間的に大量の放射線を受けた人が多かったはずです。損傷を受けた細胞が多ければ、自然治癒による修復は間に合わなくなります。
臓器で瞬間被曝量の影響を受けやすいのは生殖器です。卵巣は3グレイ、精巣は6グレイほどの放射線を瞬間的に浴びると、永久不妊になると考えられています。

累積被曝量と健康被害

被曝量が少なくても、損傷を受けた細胞が、がん細胞に変異する可能性もあります。がん細胞は免疫が働かないので修復されず、微量でも死滅せずに増殖できます。そのため、がんに対する影響を考える場合は、瞬間被曝量だけでなく累積被曝量も考慮します。宝くじを1枚だけ買っても当たるかもしれませんが、毎日1枚ずつ買えば当たる可能性も高まるのに似ています(多分)。

放射線とがんの関係については、原爆の被爆者のデータから統計的に推定されており、累積被曝量が100ミリシーベルト(mSv)を超えるとがんの罹患率が高まると考えられています。ただし、がんの要因としては喫煙や肥満による影響の方が大きいと考えられているため、過度に神経質になる必要はないと思われます。

基準値の捉え方

放射線による健康被害への影響を抑えるために、被曝量を年間1ミリシーベルト(mSv)以下にするという基準があります。これはどのような根拠に基づいて決められているのでしょうか。
まず、年間100ミリシーベルト(mSv)浴びるとがんになるリスクが上昇するという科学的証拠が存在するそうです(※3)。さらに、できる限り被曝量を少なくするという考えに基づいて、年間1ミリシーベルト(mSv)以下にするように言われています。ざっくりしていますが、微量でも健康に影響を及ぼす可能性がゼロではないため、現実的な範囲でできるだけ少なくすると年間1ミリシーベルト(mSv)がよかろうという感じだと思います。

(※3)ただし、放射線の人体への影響に関して「科学的」というのは、メカニズム(物理的作用や化学反応)ではなく、これまでの医療データに基づく「統計的な推定」と考えた方が良さそうです。

ちなみに、原発事故が起きていない日常生活においても放射線には被曝しており、日本の場合は年間2.1ミリシーベルト(mSv)に相当するそうです。また、胸部CT検査では1回あたり2ミリシーベルト(mSv)以上の放射線を浴びるそうです。

何が言いたいのかわからなくなってきました。。。まあ、年間1ミリシーベルト(mSv)は目安であって、どこまで注意するかは各々で判断するのが現状なんだと思います。

医療による被曝

胸部CT検査などでは透過力のある放射線を利用して体内を調べます。検査の際にこれまでの被曝量を聞かれたこともないので、よほど頻繁に受けるのでなければ気にしなくていいと思います。
また、放射線はがんの要因と考えられる一方で、がん細胞を死滅させる治療にも活用されています。正常な細胞に放射線が当たると損傷しますが、がん細胞も放射線が当たると損傷します。そのため、がん細胞のみを損傷させるように放射線を照射することで、がん細胞を死滅させることができるようです。

おわりに

被曝量を数値で見るときは、瞬間なのか年間なのか生涯なのかを区別する必要があります。単に「○○シーベルト受けたら危険」と書かれている記事などは、情報源を確かめた方が良さそうです。
放射線の種類ごとの性質と、細胞への作用が理解できれば、放射線による健康被害から身を守るための具体的な対応もできそうです。理解せずに不安だけ煽られると政治利用されやすいので気をつけたいです。
この記事では頻繁に環境省の「放射線による健康影響等に関する統一的な基礎資料(平成29年度版)」を参照しました。記事を書くまえに、この資料の1〜4章を読んだのですが、わかりやすくて勉強になりました。PDF版もありますが、Web版の1章へのリンクを改めて貼らせていただきます。